トシが忙しいってわかってるから、私は我侭を言わなくなった。
トシに迷惑を掛けないことが、私にできる精一杯の気遣いだと思っていたから。
どんなに寂しくても、どんなにトシに会いたくても、心の中に感情を押し殺した。
久しぶりに会う約束をしても、ドタキャンはよくあった。
トシは副長なんだし、攘夷志士がうろうろしているのを横目に、私と会うなんてできるはずもない。
真選組で働く女中が、彼らが何を一番に優先するのか、わからないわけもない。
「・・・ん、わかった。ううん、謝らないで。私なら大丈夫だから」
2週間ぶりに会えると思って、楽しみにしていたのに。
やっぱり今日も、「悪い。行けそうにない」と電話の向こうで、トシが謝った。
息が詰まるほどその言葉がショックだったくせに、私は気にしてないよと笑った。
『・・・』
電話越しに、トシが何かを言おうとして口ごもったのがわかった。
いつもそうだ。お互いに言いたいことがあるのに、肝心のところで言葉にならない。
「心配しないで。一人でぶらぶらしてから、暗くなる前には絶対帰るよ」
空はあんなにも晴れ渡っているのに、私の心の中はまるで雨が今にも降りそうなくらい、暗かった。
『悪い。埋め合わせは今度必ずする』
「いいの。トシは真選組の副長だもの。仕方ないよ」
電話越しで良かった。
だって、トシにうまく笑えていない今の顔は見られたくない。
『・・・お前、』
トシが何か言い掛けた時に、電話の向こうで大音量で彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「トシ・・・気をつけてね。じゃあ」
私はそう言って、一方的に電話を切った。
待ち合わせ場所だったはずの団子屋さんの前で、私はひっそりと溜息をついた。
行く当てもなく、ぶらぶらと歩き回っていたら、気がつくと夕方になっていた。
空が茜色に染まって、とても綺麗だった。
トシにも見せてあげたかったな、とぼんやり考えて、私はハッとした。
一人で歩き回るのがこんなにもつまらなかったのは、隣にトシがいなくて、ずっと彼のことを考えていたから。
何でもトシと結びつけてしまう・・・馬鹿だ、私。それじゃあ、辛いだけなのに。
「そろそろ帰るかな・・・」
今日はお休みをもらっているから、屯所に帰っても私の仕事はないけれど。
その事実すら何だか寂しくて、私は何度目かわからない溜息を漏らし、屯所に帰るために歩き出した。
道路の脇をトボトボと歩いていたのに、車のクラクションが後ろから聞こえてきた。
ちゃんと道はあけているのに、と少しムッとした時、名前を呼ばれた。
「!」
驚いて振り返ると、パトカーの窓から顔を出しているトシがいた。
「・・・トシ!」
トシがパトカーを私の横に止めたから、急いで駆け寄った。
「もう終わったの?」
「ああ、まぁな。それより、今日は本当に悪かった」
「謝らないで、トシが悪いわけじゃないもの」
「乗ってくか?屯所まで送る」
私は頷くと、助手席に乗り込んだ。
どんな形であれ、トシと二人っきりなのは嬉しかった。
「・・・お前、俺に言いたいことはないのか?」
車を発進させてまもなく、トシはそう尋ねてきた。
「・・・どうして?」
何のことだかわからなくて、私は首を傾げてトシの横顔を見つめた。
「いや、ないなら別にいい。・・・が、もっとこう、何つーか・・・」
歯切れが悪いトシは、チラリと私に視線を向けてから、またすぐに逸らした。
「トシ?」
「普通怒るんじゃねーのか?何度もドタキャンされたらよ」
「・・・怒らないよ。だって、仕方ないから。トシと付き合ってるだけで、私は幸せだよ」
自分の口から出た嘘に、心がぎゅうっと締め付けられた気がした。
それでも顔に表れないように、私は笑ってみせた。
「・・・はぁ」
トシはそんな私の顔を見ると、大きな溜息をついた。
そしてハンドルを切ると、公園の中に車を進める。
「トシ?屯所こっちじゃないよ?」
「知ってる」
でも・・・と反論しかけて、トシが苛ついてるのがわかって、私は口を閉じた。
車は、歩道脇に止まった。
「、お前我慢しすぎなんだよ。何でもかんでも、一人で抱え込んで」
トシは乱暴にガシガシと髪を掻きあげると、まっすぐ私の目を見た。
「たまには我儘言って俺を困らせてみろ。笑えないくせに笑おうとするな。見てるこっちが辛ェよ」
バレてた。トシには全部、バレてたんだ。
「・・・ごめん」
「何でお前が謝んだよ。悪いのは俺だろうが」
トシは困ったように小さく溜息をついてから、私を抱きしめてくれた。
「聞きわけがいい女を演じるな。もっと感情をぶつけて来いよ」
耳元で切なく囁かれて、私は胸が苦しくなった。
「・・・うん。ごめんね?」
トシの広い背中に腕を回し、私は頷いた。
「会いたかったら会いたいって言え。行かないで欲しかったら、行くなって言え。どうしても駄目な時以外は、お前の我儘聞いてやるから」
だから・・・と、トシは続けた。
「そんな今にも泣きそうな作り笑いすんじゃねーよ」
「・・・うん」
胸いっぱいに、トシの匂いを吸い込んだ。
ほとんどタバコの臭いしかしなかったけど、それだけで安心した。
「ありがとう、トシ。大好きだよ」
何の恥じらいもなく、素直な気持ちが、愛しさが溢れた。
「・・・お前なァ」
トシは、はぁーっと重い溜息をついた。
「ったく、一度しか言わねーからな」
トシは少しだけ私から体を離すと、強い眼差しで見つめてきた。
「愛してる」
言葉が終わると同時に、トシの唇がゆっくりと私の唇に重ねられた。
I love you with all my heart.
アトガキ。
【月に負け犬】の白亜様に、相互記念として捧げます。
長らくお待たせしちゃってすみませんでした!!(土下座)
土方夢とのリクエストでしたので、一応甘いのを目指してみたのですが・・・玉・砕。←
お気に召しませんでしたら何度でも書き直しますので、遠慮なくおっしゃって下さいね!!
相互リンク、本当にありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願い致します^^
2008.07.24 朱李拝
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素敵な土方を朱李さまより頂きました!
甘いです、甘いです朱李さま! もう十分すぎるほど甘いです! PC前でにやにやしてしまいます!←
何より 土方が男前です・・・っ ときめきどきどき。←
一途なヒロインちゃんがとても可愛いです。
土方さんが男前です(二回目)。
本当に素敵なものをありがとうございました!
こちらこそどうぞよろしくお願いします!